カレントテラピー 35-6 サンプル

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8 Current Therapy 2017 Vol.35 No.6510Ⅰ 脳卒中片麻痺の病態と治療起点脳卒中の患者数は130万人を超えるといわれ,毎年25万人以上が新たに脳卒中を発症していると考えられている1).脳卒中による死亡を免れても,40%は運動障害,感覚障害,高次機能障害などの後遺症を抱えることになり2),介護の必要なく元気に過ごせる「健康寿命」は短くなる.このことは,脳卒中が要介護要因の一位であることからも裏付けられている3).本人も生活が制限され,再就労に困難が生じ,介護する側の時間や費用が割かれ,保険料と税金によって賄われている医療保険,介護保険の支出が続くことは,高齢者の増加や就労世代の減少をともなうこれからの超高齢社会において大きな問題となっている.脳卒中後に運動障害が残存する神経科学的な要因としては,①脳内では神経新生が乏しいこと4),②損傷神経の修復が強く抑制されていること5),③麻痺肢が思い通りに使えなかったり,痛みを伴ったりすることによる学習性不使用状態が,従前の神経回路の機能性を低下させること6),④不適切な運動が癖づくこと(誤学習,適応不全)6),⑤失った機能を肩代わりしてくれる代償野や代償経路が十分に活性化しないこと7),⑥手指や肩などの身体部位ごとに生じる神経機能再構成プロセスが相互干渉して,十分な回復効果が得られないこと8),などが挙げられる.また,上記要因①②の背後には,⑦グリアからのシグナルによって神経成長が抑制されていること,⑧グリア瘢痕によって神経伸展が阻害されていること,⑨脳血管環境が傷害されているため,新生細胞が血管上を移動して傷害部位を修復できないこと,⑩血流動態が悪化しているため,細胞死が誘導されたり,回復能が制* 慶應義塾大学理工学部生命情報学科准教授脳卒中リハビリテーションの最近の動向─ 障害に対する新たなアプローチ神経科学の立場からリハビリテーション臨床へ牛場潤一*脳卒中片麻痺は一般に根治が難しく,生活制限,離職問題,介護負担,税負担の観点から大きな問題となっている.脳卒中後に運動障害が残存する要因としては,損傷部位の生物学的修復が不完全であることと,残存神経経路が機能不全に陥って十分な代償経路の構築が進まないことが挙げられる.これに対して近年では,神経科学分野において神経機能の可塑性や運動学習に関する基礎的な知見が蓄積し,代償経路の構築を高効率に誘導する治療手法の開発が可能になりつつある.使用依存的可塑性,タイミング依存的可塑性,強化学習,誤差学習といった可塑性と運動学習にかかわる理論的枠組みは,脳卒中片麻痺をつくり出している中枢神経系の複数の異なる領域に対して適用可能であり,これをもって神経治療のあり方を考えることができる.本稿では,ブレイン・マシン・インターフェース(Brain-Machine Interface:BMI)による脳卒中片麻痺治療の試みを,そのひとつのパイロットスタディとして紹介する.