カレントテラピー 35-6 サンプル

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82 Current Therapy 2017 Vol.35 No.6584Ⅱ 脳の可塑性を誘導する薬物1 モノアミン作用を増強する薬物脳卒中などによる中枢性運動麻痺に対して脳の可塑性を効率よく引き出すためには,シナプスでの情報伝達を変化させる必要があると考えられる.シナプスでの情報伝達を担っているのが神経伝達物質である.したがって,神経伝達物質の作用を変化させる薬物は脳の可塑性を引き出す可能性があり,ひいては中枢性運動麻痺を改善する薬物となり得る.神経伝達物質には,ノルアドレナリン,セロトニン,ドパミン,アセチルコリン,グルタミン酸,γ- アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid:GABA)などがある.このうち,ノルアドレナリン,セロトニン,ドパミンはモノアミンと呼ばれ,中枢性運動麻痺の回復に重要な役割を担っていると考えられている.すなわち,モノアミンの作用を増強する薬物が中枢性運動麻痺の治療薬となる可能性がある.1)D-amphetamineD-amphetamineは覚醒剤に分類される薬物で,ノルアドレナリン,セロトニン,ドパミン作動性神経終末に作用し,これらの神経伝達物質の作用を増強させる.ラットでの実験からFeeneyら1)は中枢性運動麻痺の回復がD-amphetamineにより促進され,また,このときに運動が必要であることを見出した.これは,ヒトでのD-amphetamine投与とリハビリテーションの併用による効果を暗示している.その後,Crisostomoら2)はヒトにD -amphetamineを投与して運動麻痺の回復に効果的であることを報告した.その後,いくつかの報告が行われたが,その結果は必ずしも一致せず,D-amphetamineが有効であるという報告3),4)と無効であるという報告5)~8)がある.最近の報告では,Schusterら9)による無作為化二重盲検プラセボ対照試験があり,16例の脳卒中患者で検討された.運動療法を併用して,D-amphetamine 10mg(7例)またはプラセボ(9例)を週2日5週間にわたり訓練前に服用させた.その結果,運動機能の有意な改善を報告している.以上のように,D-amphetamineは今までよく研究されてきた薬物ではあるが,中枢性運動麻痺の改善効果についての見解は一致していない.ある条件下では効果があるとしても,D-amphetamineが覚醒剤であることも考えると中枢性運動麻痺に対する臨床的実用性は低いのではないかと考えられる.2)選択的セロトニン再取り込み阻害薬選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selectiveserotonin reuptake inhibitor:SSRI)はセロトニン作用をもち,一般臨床ではうつ病などに適応がある.Damら10)は52例の脳卒中で,SSRIのfluoxetine20mg,四環系抗うつ薬のマプロチリン150mg,プラセボを無作為に割り付けて3カ月間投与し,運動療法も行った.その結果,fluoxetine投与群で回復が最も良好であったことを報告した.なお,マプロチリンはノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害する(すなわちノルアドレナリン作用をもつ)が,セロトニンの再取り込みは阻害しない.脳損傷(中枢性運動麻痺)脳の再構築薬物脳の可塑性を誘導リハビリテーション訓練機能回復図1中枢性運動麻痺に対するリハビリテーション