カレントテラピー 35-2 サンプル

カレントテラピー 35-2 サンプル page 8/32

電子ブックを開く

このページは カレントテラピー 35-2 サンプル の電子ブックに掲載されている8ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
カレントテラピー 35-2 サンプル

Current Therapy 2017 Vol.35 No.2 11免疫チェックポイント阻害療法の基礎と臨床109昇する11),15).免疫応答が起こると,活性化したT細胞やB細胞を含むほとんどの免疫担当細胞がPD -L1を発現する.また,ウイルス感染が起こると,血管内皮細胞だけでなく,臓器の実質細胞もPD -L1を発現する.さらに興味深いことにPD -L1は血液系腫瘍,皮膚がん,肺がん,卵巣がん,乳がんなど多くの種類の固形がんで発現がみられる.一方,PD -L2の発現は限局的で,抗原提示細胞に発現する14).PD-1に比べてPD-L1は,発現する時期,細胞の種類も広範なので,PD -L1を確実にブロッキングするには,PD-1よりも大量の抗体投与を必要とする.Ⅵ PD-1シグナル阻害剤による抗腫瘍効果免疫応答が起こると活性化T細胞がPD -1を発現し,炎症刺激によりリンパ組織および末梢組織のさまざまな細胞がPD -L1を発現する.PD -L1はPD -1に結合するとT細胞の機能を抑制し,免疫寛容を誘導して,過剰な免疫応答を抑え組織傷害から生体を守る.これがPD -1/PD -L1シグナル本来の生理的役割と考えられる(図2).一方,がん細胞はPD -L1を発現することによって,T細胞の活性化を抑制し,宿主の免疫監視から逃れる16).がんの微小環境では,がん細胞以外のPD -L1発現細胞(免疫担当細胞や血管内皮細胞など)もT細胞抑制に関与する可能性がある.PD -L1を発現させた腫瘍細胞を同系マウスに移植すると,腫瘍が著しく増大し,他臓器への浸潤・転移が促進する.この現象に着目して,2002年に本庶らのグループは,PD-L1抗体によりPD-1シグナルを阻害することによって,がんの増殖阻害が可能なことを,動物モデルで示した16).さらにPD -1抗体は,免疫原性の低い腫瘍の転移モデルにおいて単剤で抗腫瘍効果を発揮した17).Ⅶ PD-1とCTLA-4の違いPD -1とCTLA -4は発現する細胞や時期が異なる(表).CTLA-4は制御性T細胞に恒常的に発現し,活PD-L1 PD-L2PD-L1PD-1抗原提示細胞樹状細胞マクロファージPD-L1感染細胞ウイルス細菌がん細胞活性化リンパ球B細胞T細胞PD-1PD-L1 PD-L1血管内皮細胞抗原活性化抑制抑制性免疫寛容シグナル生理的役割過剰な免疫応答を抑制し組織傷害から生体を守る病理的役割がんはPD-L1を発現して宿主免疫監視から逃避PD-1/PD-L1抗体T細胞T細胞アナジーアナジー免疫応答を増強PD-1シグナルを阻害図2 PD- 1 /PD-L 1 シグナルの役割免疫応答で炎症がおこるとリンパ組織および末梢組織のさまざまな細胞がPD -L 1を発現する.一方,抗原刺激や炎症刺激によりT細胞上にPD - 1 が発現する.PD -L 1 はPD - 1 と結合して,T細胞の機能を抑制し,免疫寛容を誘導して,過剰な免疫応答を抑制して組織傷害から生体を守る(生理的役割).がん細胞やウイルス感染細胞はPD -L 1を発現することによって,T 細胞の活性化を抑制し,宿主の免疫監視から逃れる(病理的役割).これらの病態において,その他のPD-L 1発現細胞(免疫担当細胞や血管内皮細胞など)もT 細胞抑制に関与する可能性がある.PD- 1 /PD-L 1抗体は抑制性シグナルの遮断によりT 細胞を活性化し,がんやウイルス感染に対する免疫応答を増強する.