カレントテラピー 35-1 サンプル

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62 Current Therapy 2017 Vol.35 No.162まで報告されてきたメタ解析,システマティックレビュー,ランダム化比較試験(RCT)を含む臨床研究の結果からは,“効果あり”と“効果なし”が混在しており5)~9),現在のところ十分なエビデンスがあるとはいい難い.臨床研究において蛋白質制限の腎保護効果を明らかにできない要因としては,食事介入という方法論的な困難性に起因する蛋白質制限食に対するアドヒアランスの問題と,腎保護効果を発揮する蛋白質摂取量の問題が考えられる.わが国で行われた蛋白質摂取制限の2型糖尿病顕性腎症に対する効果を検証したRCTでは,5年間にわたる通常食群(1.2g/kg/日)と蛋白質制限食群(0.8g/kg/日)の2群間の追跡の結果,蛋白質摂取量と腎機能低下抑制の間に差を認めなかった.しかし,通常食群と蛋白質制限食群の24時間蓄尿より測定した蛋白質摂取量はいずれの群も約1.0g/kg/日と差が生じなかったことから,長期にわたる蛋白質制限実施の困難性,さらに腎保護効果を発揮するための蛋白質制限量が0.8 g/kg/日では不十分である可能性が浮き彫りになった6).一方Nezuらは,たんぱく質制限のアドヒアランスの確保(遵守)ができれば,腎症において蛋白質制限(0.6~0.8g/kg/日),標準食(1.0~1.6g/kg/日)に比較してはeGFRの改善効果があるとの13件のRCTに対するメタ解析結果が報告されたことにより,蛋白質制限はその遵守が可能であれば,一定の効果は期待できる可能性はあると考えられる9).したがって,現状の0.6~0.8g/標準体重(kg)/日の蛋白質制限でもアドヒアランスがクリアできれば腎保護効果が期待できる可能性が示唆される.しかし,腎保護効果を発揮する蛋白質制限は0.6~0.8g/標準体重(kg)/日では不十分であるとの報告もある.Ideuraらは,慢性糸球体腎炎患者(血清Cr値≧6mg/dL)を対象にした臨床研究において,蛋白質摂取制限の腎保護効果は0.6g/標準体重(kg)/日では不十分で,<0.5g/標準体重(kg)/日の高度蛋白質制限で発揮されると報告している10).さらに島居らは血清Cr 値≧3.0 mg/dLの糖尿病慢性腎不全を対象とした検討で,蛋白質制限食0.5g/理想体重(kg)/日は,尿蛋白の減少と透析療法への導入遅延をもたらしたが,0.6g/理想体重(kg)/日以上の蛋白質摂取ではこれらの効果が認められなかったと報告している11).これらの結果を踏まえると,腎保護効果を発揮させるためのより有効な蛋白質制限量を再考する必要があるかもしれない.現状で腎保護効果を期待して高度蛋白質制限を行う場合,低蛋白質特殊製品の利用や,フレイル・protein-energy wasting(PEW)を含む栄養不良12)を引き起こさないように,経験豊富な医師・管理栄養士により全身状態の細かな管理が必要である.このように,腎症の腎機能低下に対する蛋白質制限の効果は,現在のところ臨床的エビデンスが十分ではないと言わざるを得ないが,その実施が可能である場合には効果を期待できる可能性がある.しかし蛋白質の必要量は,年齢,個々の栄養状態により異なっているため,画一的な指導は不適切であり,個々の年齢,病態,リスク,腎機能低下速度,アドヒアランスなどを総合的に判断して行う必要があると考えられる.また,蛋白質制限が腎症の進展を抑制する効果を有するとしても,どの程度の蛋白質制限が腎保護に必要なのか(現在推奨されている0.6~0.8g/kg/日では不十分なのか),どの時期からそれを施行すべきか,あるいは高度蛋白質制限の栄養学的安全性など解決すべき課題は多く,今一度,基礎的研究を含めて検証すべきであると考える.Ⅲ 蛋白質制限の糖尿病性腎症に対する腎保護効果の機序と期待される効果蛋白質摂取制限はどのような機序を介して腎保護効果を発揮するのか?糖尿病状態において認められる糸球体過剰濾過に起因する糸球体高血圧は,腎症の発症に密接に関与しており,進展した腎症では機能するネフロン数が減少することから,残存するネフロンにおけるさらなる糸球体過剰濾過・糸球体高血圧が惹起され,腎障害および機能低下を加速的に進展させる13).したがって,単一ネフロンの仕事量の軽減,糸球体過剰濾過・糸球体高血圧の改善が腎保護に繋がると考えられる.糖尿病腎症を含む慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)に対する腎保護効果のエビデンスが数多くの