カレントテラピー 34-11 サンプル

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8 Current Therapy 2016 Vol.34 No.111048Ⅰ はじめに私達ヒトの一個体には,数十から100兆の細菌が生息していると見積もられている.そのなかで腸管は最も多くの細菌が存在する箇所である.腸内細菌の存在は古くから知られていたが,熱心に研究されてきたのは病原菌や日和見感染菌などに限られており,その他の常在細菌群や腸内細菌叢の全体構造については研究が遅れている現状がある.これには腸内細菌叢が難培養細菌を含む100種以上の細菌種から構成される複雑系であることと,腸内細菌叢の構造が高い個人特異性をもっており個人間の多様性に富んでいるため,腸内細菌叢の全体像を解析するのが技術的に困難であった背景からと考えられる.細菌叢構造の全体を解析するためには,培養を介さずに試料から直接回収されるDNAの配列をシークエンシングし,得られた配列データを指標とする分子遺伝学的解析手法が以前から用いられてきた.2005年に,従来のシークエンシング技術(サンガー法)よりも,数桁高いDNA配列読み取り能力を有する次世代シークエンサー(next generation sequencer:NGS)が登場して以降,腸内細菌叢に対する解析が大きく加速した.その結果,腸内細菌群がホストの代謝および免疫系へ密接に関与すること1),2)や,腸内細菌叢の構造的破綻(dysbiosis)が疾患に結びつくこと3)などが次々に明らかにされた.また,それまでは,作業量やコスト面から困難であった大規模なコホート研究による集団(国レベル)での腸内細菌叢の違いや4),詳細な時系列解析による腸内細菌叢の動態5)なども解析されるようになり,新しい知見が相次いで報告されている.*1 慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室講師/東京大学大学院新領域創成科学研究科メタゲノム情報科学研究室*2 早稲田大学理工学術院先進理工学研究科教授/東京大学大学院新領域創成科学研究科メタゲノム情報科学研究室腸内細菌と諸疾患─ここまで明らかになった腸内細菌と全身疾患の関連次世代シークエンシングを応用した腸内細菌叢解析方法須田 亙*1・服部正平*2ヒト一個体には,数十から100兆の細菌が生息していると見積もられている.そのなかで腸管は最も多くの細菌が存在する箇所である.腸内細菌叢は数百種以上の細菌種から構成される複雑系であり,従来の技術では腸内細菌叢の全体像を解明することは困難であった.近年,次世代シークエンシング技術の発展によって腸内細菌叢の解析が飛躍的に効率化され,さまざまな新知見が得られ続けている.次世代シークエンシング技術を用いた腸内細菌叢手法には,菌叢を構成する菌種の種類と組成比のみを解析する「メタ16 S解析」と,機能遺伝子を含めたすべての配列情報を網羅的に取得し,機能遺伝子組成も含め菌層構造を解析する「メタゲノム解析」がある.また,腸内細菌叢を構成する細菌を単離し,個別にゲノム情報を決定するゲノム解析もデータベースを構築するうえで重要である.本稿では,これらの解析手法論について実際の解析例も上げながら解説する.