カレントテラピー 34-11 サンプル

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78 Current Therapy 2016 Vol.34 No.111118Dysbiosis久留米大学医学部内科学講座消化器内科部門炎症性腸疾患センター教授 光山慶一口腔,鼻咽頭,胃,腸管,尿道,膣,皮膚など外部環境と接する部位には,膨大な数の細菌が共生的に定着している.なかでも腸管は細菌の生育にとって最適な環境であるため,約1,000種100兆個を超える常在細菌が群集構造を形成して生息している.この多様な細菌群は,腸管内部で生存競争を繰り広げ,互いに排除したり共生関係を築きながら,一定のバランスが保たれた均衡状態にある生態系を形成しており,腸内細菌叢と呼ばれている.実際には,この系には細菌だけでなく真菌,ウイルスなどの微生物も混在しバランスを形成していることから,腸内微生物叢とも称される.腸内細菌叢は,消化の補助・代謝,有害物質の解毒,感染制御(病原体に対する生物学的防御バリア),免疫調節,腸管上皮の分化誘導などの生理活性を有しており,個体の成熟化や恒常性の維持に重要な役割を果たしている.近年,腸内細菌の解析手段として従来の培養法に加え分子生物学的手法を駆使した各種のゲノム解析法が開発され,腸内細菌叢の全容が解明されつつある.その結果,炎症性腸疾患,大腸癌などの消化管疾患のみならず,腸内細菌と一見関わりなさそうに思えたアレルギーや自己免疫疾患,脳神経系,内分泌系,循環器系の疾患においても腸内細菌叢に変化がみられることが報告されるようになった.このような腸内細菌叢の変化をdysbiosisと呼ぶ.Dysbiosisの明確な定義は定められていないが,一般的には腸内細菌の有益菌種と有害菌種のバランスが崩れた状態のことを指す1).具体的には,細菌種の数の減少や,少ないはずの細菌種の異常増加,優勢であるはずの細菌種の減少などが挙げられる2).腸内細菌叢は多くの要因によりコントロールされており,各種病態によっても大きく影響される.Dysbiosisが生じる要因としては,遺伝的素因による免疫異常などの先天性因子と,食習慣(脂肪,タンパク質,炭水化物,繊維)や生活環境(清潔度,抗生物質)といった後天性因子の関与が示唆されている3).しかしながら,dysbiosisが病態の原因なのか結果なのかについては依然不明な点が多い.最近,プロバイオティクス・プレバイオティクス,腸内細菌由来の生理活性物質の投与や,糞便微生物移植などによるdysbiosisの是正が,いくつかの疾患に対して有効な治療法となることが明らかとなってきた.今後,腸内細菌叢を含む腸エコシステム全体を包括的に把握することが可能となり,疾患治療の新たなストラテジーへとつながることが期待される.参考文献1)Tamboli CP, Neut C, Desreumaux P, et al:Dysbiosis in inflammatory bowel disease. Gut 53:1-4, 20042)Honda K, Littman DR:The microbiome in infectious disease and inflammation. Annu Rev Immunol 30:759-795, 20123)Sommer F, Backhed F:The gut microbiota-masters of host development and physiology. Nat Rev Microbiol 11:227-238, 2013腸内細菌と諸疾患─ここまで明らかになった腸内細菌と全身疾患の関連