カレントテラピー 34-11 サンプル

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74 Current Therapy 2016 Vol.34 No.111114ティクスによる大腸癌予防については以前から疫学的な研究が報告されていたが,前向き試験による評価が難しいことから高いエビデンスレベルの臨床試験はなかった.最近になって,Ishikawaらが約4年間の前向き試験によってL. casei 菌投与による大腸高異型度腫瘍の発生予防効果を明らかにし,プロバイオティクスによる腫瘍抑制効果の可能性を示した15).しかし現時点では,臨床的に明らかな癌治療効果が証明されたプロバイオティクスはなく,強力な抗腫瘍効果をもつプロバイオティクスの発見や大規模な臨床試験による治療効果の証明,投与方法や適応選択指標の確立が今後の課題である.4)過敏性腸症候群過敏性腸症候群患者の腸内細菌叢は健常人と異なることから16),これまで多くのプロバイオティクス治療に関する臨床試験が行われてきた.MoayyediらはRCTを対象にしたメタ解析を行った結果,IBSの持続する症状が優位に改善しており(RR 0.71, 95%CI0.57- 0.88;NNT 4, 95%CI 3-12.5),プロバイオティクスは本疾患に有用な治療法であることを明らかにした.その作用機序については,バリア機能の改善効果や神経系への作用が示唆されている17).今後は有効な菌株やその投与方法について,本疾患のタイプ別に解析をしていく必要があると考えられる.5)代謝性疾患腸内細菌叢と肥満との関連性が示されて以来18),さまざまなプロバイオティクス治療によって,肥満や脂質代謝の改善が報告されている19).そのメカニズムについても,肝や脂肪細胞における脂質代謝の改善作用20),21),耐糖能の改善作用22),脂肪酸の酸化関連遺伝子発現の調節23),腸内細菌叢のバランスの変化24),25)が明らかにされており,プロバイオティクス治療が腸管上皮への直接作用および腸内細菌叢の変化を通じて代謝系のコントロールに関与しているものと考えられる.現在,代謝疾患の治療薬として認可されたプロバイオティクス治療薬はなく,今後の臨床試験による効能・効果の証明が期待される.Ⅳ プレバイオティクスによる治療1 定義,種類,作用プレバイオティクスは,1994年にGibsonとRoberfroidによって初めて提唱されたものであり26),微生物であるプロバイオティクスとは異なり,以下の条件を満たす食品成分を指す.1)消化管上部で加水分解せず,吸収されない.2) 大腸に共生する一種または限定された数の有益な細菌(ビフィズス菌等)の選択的な基質(栄養素)であり,それらの細菌の増殖を促進し,または代謝を活性化する.3) 大腸の腸内細菌叢(フローラ)を健康的なバランスに改善し,維持する.4)宿主の健康に有益な効果をもつ.プレバイオティクスには,主にオリゴ糖や食物繊維の一部,乳清発酵物が含まれる.オリゴ糖にはガラクトオリゴ糖,フルクトオリゴ糖,大豆オリゴ糖,乳果オリゴ糖,キシロオリゴ糖,イソマルオリゴ糖,ラフィノース,ラクチュロース,コーヒー豆マンノオリゴ糖,グルコン酸などがあり,グルコシド結合の部位や結合の個数,分枝,環状構造の有無によって特徴づけられる.オリゴ糖の製造には主に微生物由来の酵素による加水分解反応,糖転移反応,縮合反応が利用されている.食物繊維は「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」とされ,前述したオリゴ糖を含むか否かについては議論がある.食物繊維は,水溶性のものと不溶性のものに分けられ,前者にはペクチンやグルコマンナン,アルギン酸,β- グルカンなどが,後者にはセルロース,ヘミセルロース,リグニン,キチンなどが含まれる.乳清発酵物は乳清をプロピオン酸菌で発酵させて製造したものである.プロピオン酸菌は主に乳製品中に存在する非運動性,非芽胞性のグラム陽性桿菌で,欧州を中心に食品を介して広範に消費されてきた経緯から安全な菌種とされている.プレバイオティクスの主な作用は,①ビフィズス菌の増殖促進27),②短鎖脂肪酸の増加,③消化管免疫の誘導28),④ミネラルの吸収促進29),⑤尿中窒素排泄