カレントテラピー 34-11 サンプル

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Current Therapy 2016 Vol.34 No.11 711111Ⅰ はじめにヒト腸管には2,000種類を超える細菌が共生し個体に特有の腸内細菌叢を形成することで腸管の恒常性を維持している.この腸内細菌叢の異常がさまざまな疾患の発症や病態に関与しており,新たな治療標的として注目されている.本稿では,腸内細菌を標的とした治療法として,抗菌薬,プロバイオティクス,プレバイオティクスを用いた治療の現況と問題点を解説するとともに,菌由来物質(バイオジェニックス)を用いた治療開発について述べる.Ⅱ 抗菌薬による治療抗菌薬は病原菌による急性腸管炎症に効果的であり,病原大腸菌などの病原菌による腸管感染症の治療に用いられる.また,さまざまな実験腸炎モデルを用いた基礎的研究から,無菌状態で腸炎は発症しないことが明らかにされており,抗菌薬による腸内細菌の制御が腸炎を改善する可能性が示唆される.Ohkusaらは,抗菌薬多剤併用(ATM)療法にて腸内細菌の一種であるFusobacterium varium を除菌することにより潰瘍性大腸炎の腸炎が改善することを報告しており,炎症性腸疾患における抗菌薬治療の可能性を示した1).しかし,抗菌薬の使用で逆に腸内細菌叢に悪影響を及ぼし日和見感染を起こすという負の作用もあり,今後,治療期間や対象症例の選択基準腸内細菌を標的とした治療法藤谷幹浩** 旭川医科大学内科学講座消化器・血液腫瘍制御内科学分野准教授腸内細菌と諸疾患─ここまで明らかになった腸内細菌と全身疾患の関連腸管疾患をはじめ多くの疾患の病態に腸内細菌叢の異常が関係していると考えられ,これを標的とした治療法が開発されるようになった.抗菌薬による治療としては,潰瘍性大腸炎患者の腸内に多く存在するFusobacterium varium を標的とした抗菌薬多剤併用(ATM)療法が行われ臨床的効果が確認されている.一方で抗菌薬は菌叢の異常を惹起することも知られており対象症例を慎重に選択する必要がある.プロバイオティクスは抗生剤起因性腸炎などの急性腸炎に対して予防効果があるが,炎症性腸疾患などの慢性腸炎や大腸癌に対する効果は一定の見解が得られていない.プレバイオティクスは機能性食品として疾患の予防に効果があるとされるが,治療薬としての臨床応用は現在のところなされていない.プロ・プレバイオティクスはいずれも副作用が少ない特徴をもち,高齢者や合併症をもつ症例でも安心して投与できる治療薬となり得る.また,菌由来物質を用いた新規治療薬の開発も進んでおり,今後の展開が期待される.a b s t r a c t