カレントテラピー 34-11 サンプル

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66 Current Therapy 2016 Vol.34 No.111106Ⅰ はじめに腸内細菌研究の進歩は,腸内細菌を標的としたさまざまな治療法(プロバイオティクス,プレバイオティクスなど)の開発に結びついてきた.プロバイオティクスは生体にとって有用な作用を示す特定の生菌で,摂取することによって腸内細菌叢を改善する作用を有する微生物と定義されている1()図).プレバイオティクスはヒトの消化管内で消化吸収されず宿主のもつ有益な細菌叢の成長や活動度を選択的に刺激する因子と定義され,具体的には食物繊維やオリゴ糖などが含まれる1).これらに加えて,難治性再発性Clostridium difficile (CD)腸炎に対する劇的効果から注目されているのが糞便微生物移植療法(fecalmicrobiota transplantation:FMT)である.FMTは,北米で猛威をふるっているCD腸炎や炎症性腸疾患(inflammatory bowel diseases:IBD)患者の小大腸に健康人ドナー便を直接投与することにより変化した腸内細菌叢を改善し原疾患の治癒を期待する治療法である.本稿では,CD腸炎に対するFMTの効果を中心に,IBDなどの他疾患におけるFMTの現状について概説する.Ⅱ FMTの歴史FMTについてはさまざまな記録が残されているが,1958年に米国の外科医Ben Eisemanが偽膜性腸炎に対する有効性を『Surgery』誌に発表した論文が最初の科学的な報告である.その後,1983年にCD腸炎に対する初めての報告がなされると,再発難治性* 滋賀医科大学医学部消化器内科教授腸内細菌と諸疾患─ここまで明らかになった腸内細菌と全身疾患の関連糞便微生物移植療法安藤 朗*抗菌剤の投与などが原因となって発症するクロストリヂウム・ディフィシル腸炎(Clostridiumdifficile infection:CD腸炎)は,高齢者や免疫不全患者では重症化し死に至ることもある.特に,欧米では重症化と関連するNAP1株の院内感染が大きな問題となっている.このようなCD腸炎,特に難治性再発性CD 腸炎に対する高い有効性から注目されているのが糞便微生物移植療法(fecalmicrobiota transplantation:FMT)である.FMT は,内視鏡や経鼻チューブを用いて健康なドナー便をCD 腸炎患者の(小)大腸に直接投与する治療法である.ゼラチンカプセルによる経口投与や凍結ドナー便を用いた経験も報告されている.重篤な副作用はほとんどなく,CD 腸炎に対する有効率はほぼ90%に達する.一方,腸内細菌叢の変化が病態の形成に関与することが示されている炎症性腸疾患などについては,その有効性はいまだ確立されていない.本稿では,CD 腸炎を中心にFMTの現状とこれからの展望について解説する.