カレントテラピー 34-11 サンプル

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Current Therapy 2016 Vol.34 No.11 23腸内細菌と腸疾患1063リウム(dextran sodium sulfate:DSS)腸炎が悪化することや,これに対する抗菌薬の投与によってDSS腸炎の悪化が軽減されることを明らかにしており,IBDにおける腸内細菌と腸管上皮および粘液層とのかかわりが重要であり,Lypd 8がここに関与していることを示している.さらに健常人とUC患者の大腸上皮におけるLypd8の発現の比較も行っており,非常に興味深いことにUC患者の大腸上皮では健常人に比べLypd8の発現が減少していることも明らかとなった.これらの事実から,ヒトのUCにおいてもLypd8の発現の低下と腸内細菌の侵入防御の低下がその病態に関与している可能性が考えられる.Ⅳ 腸内細菌をターゲットとしたIBD治療dysbiosisが慢性的な消化管の炎症の惹起と関連することに注目し,現在IBDに対して腸内細菌叢を是正することにより炎症の鎮静化を目指す治療が注目されている.この手段としては,炎症の抑制や恒常性の維持に寄与するいわゆる「善玉」の微生物そのものを投与する「プロバイオティクス」,こうした宿主にとって有益な微生物の作用や増殖を促進させる食品成分を投与する「プレバイオティクス」,いわゆる「悪玉」の細菌を減少させることを目的とする「抗菌薬投与」,そして健常人の腸内細菌をIBD患者の消化管内へ直接移植をする「糞便微生物移植(fecalmicrobiota transplantation:FMT)」が挙げられる.プロバイオティクスのひとつであるClostridiumbutyricum MIYAIRI588 株(C. butyricum )は,腸炎モデルマウスに投与すると,IL - 10産生性マクロファージの誘導を介して腸炎を抑制することが明らかとなった16).さらにC. butyricum はマウスの大腸粘膜に存在する樹状細胞に対してSmad 3を介したTGF -βの発現を促進させる作用を有することが明らかとなり17),TGF -βは大腸組織におけるinducedregulatory T(iTreg)細胞を誘導することから,C.butyricum は消化管の炎症抑制作用を有すると考えられる.プロバイオティクスとしてはこの他にEscherichiacoli Nissle 1917 株を含む複数の細菌を混合したVSL#3が144名のUC患者を対象とした二重盲検ランダム化比較試験において,既存治療に対する寛解導入療法の上乗せ効果があったことが報告されている.プレバイオティクスの要件としては,消化管上部で分解・吸収されず,消化管に共生する有益な細菌の選択的な栄養源としてその増殖を促進し,腸内細菌叢を改善させたうえでヒトの健康増進に役立つ食品であることを指し,食物繊維の一部やオリゴ糖などが具体例として挙げられる.食物繊維は先述のとおり,ある種において腸内細菌による発酵により酪酸をはじめとする短鎖脂肪酸へと代謝され,抗炎症作用を発揮するものがある.抗菌薬に関しては,UC患者に対して前述のF.aviumを標的とした抗菌薬治療によりプラセボ群に比べて臨床的な改善率が高かったとする本邦の報告があるが,長期投与の安全性や耐性菌の出現などの課題が残される.CD患者においても複数のランダム化比較試験(RCT)を対象としたメタ解析で,抗菌薬投与がプラセボ群に比較して有効であったという報告があり,本邦の治療ガイドラインにおいても,中等症までのCDに対してシプロフロキサシンやメトロニダゾールの内服が治療の選択肢として位置づけられている.FMTは2013年に再発性Clostridium difficile 感染症に対して既存の抗菌薬治療とのRCTにおいて優越性が示された18)ことで大きく注目され,dysbiosisを有するIBDに対する治療効果が期待され現在各国において臨床試験によりその有用性が検証されている.FMTの治療成績に関する報告はUCに対するものが多く,2015年にUCに対するFMTのRCT 2報が報告されている.このなかで,Moayyediらはプラセボに対するFMTの寛解導入の優越性があったと報告している19)が,Rossenらはプラセボとの間に効果の差はなかったと結論づけており20),有用性に関しては一定の見解は得られていない.この理由として,重症度・罹患歴などの患者背景や,投与方法・間隔といったプロトコールが臨床試験によってまちまちであることが挙げられる.さらに,Moayyediらの報告のなかでは,特定のドナーからのFMTを受けたレシピエントで治療効果が高かったという結果も認められ,ドナー側の因子が治療効果へ影響する可能性も考慮