カレントテラピー 34-11 サンプル

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Current Therapy 2016 Vol.34 No.11 191059Ⅰ はじめに炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)は再燃と寛解を繰り返す消化管の慢性炎症を特徴とする疾患であり,狭義には潰瘍性大腸炎(ulcerativecolitis:UC)とクローン病(Crohn’s disease:CD)に大別される.Genome -wide association study(GWAS)により現在160を超えるIBDの疾患感受性遺伝子が同定されており,宿主の免疫機能にかかわる遺伝子異常もここには多く含まれている.しかしながら,このように多くの遺伝子変異との関与が知られている一方で,実際にこうした遺伝子変異が発症に寄与している症例はCDで30~40%程度,UCに至っては10%程度と見積もられており,IBDの発症には後天的な環境因子の関与が大きな役割を果たしていると言える.具体的には欧米化の進んだ食生活,幼少期における衛生環境や抗菌薬の使用といったものなどが挙げられるが,こうした後天的因子として,近年,IBD患者における腸内細菌叢の異常が非常に注目を浴びている.すでに多くの研究の結果よりIBD患者においては,腸内細菌叢の菌数や構成の変化と多様性の低下(dysbiosis)が認められることが知られており,宿主の消化管における異常な免疫反応と深くかかわりがあるとされる.本稿では,腸内細菌叢の変化という点からみたIBDについて概説していく.Ⅱ 腸内細菌叢の役割IBD患者における腸内細菌に関して述べる前に,まず健常人における腸内細菌叢が有する特徴につい*1 慶應義塾大学医学部消化器内科助教*2 慶應義塾大学医学部消化器内科教授腸内細菌と諸疾患─ここまで明らかになった腸内細菌と全身疾患の関連炎症性腸疾患における腸内細菌叢清原裕貴*1・水野慎大*1・金井隆典*2ヒトは約1,000種,100兆個以上の腸内細菌と共生をしている.腸内細菌は宿主の免疫担当細胞の分化誘導に関与するほか,食物繊維を代謝して産生する短鎖脂肪酸が,腸管上皮細胞の増殖や上皮からの抗菌ペプチドの産生などの恒常性の維持に関与しており,宿主は生理的に腸内細菌からの恩恵を受けている.またClostridium 属細菌のなかには制御性T細胞を誘導する種もあり,間接的に炎症の抑制にも関与している.炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)の患者では腸内細菌叢の菌数ならびに多様性が低下(dysbiosis)していることが知られている.消化管粘膜における正常な免疫機構が障害され,過剰な免疫応答が惹起されることや,代謝産物の産生調整が攪乱されて上皮障害が生じることなどがIBDの病態仮説として考えられており,dysbiosisはこれらに関与していると考えられる.こうした病態を背景として,プロバイオティクスや糞便微生物移植といった腸内細菌を標的とした治療が,IBDへの新たな治療法として期待されている.