カレントテラピー 33-11 サンプル

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カレントテラピー 33-11 サンプル

Current Therapy 2015 Vol.33 No.11 11がん診断1061在するmiRNAが報告されており18)~20),これらタンパク質と結合することで,RNaseからの分解を防いでいるという見解もある.b)は,エクソソームといわれる細胞が分泌する100nm程度の小胞に内包されて,体液中に存在するmiRNAである12).エクソソームは脂質二重構造を有し,その内部にmiRNAが含まれているため,RNaseの分解から免れ,体液中で安定的に存在することが知られている.c)は,細胞がアポトーシスを起こした際に生じるアポトーシス小体に内包されているmiRNAで21),d)は細胞が破損した際に細胞から漏れ出たmiRNAであり,c),d)どちらも細胞が能動的に細胞外に分泌したものではない.このような体液中に存在するmiRNAを総称して“circulating miRNAs”と呼称する.Ⅳ Circulating miRNAsによるがん診断と問題点Circulating miRNAsを利用したがん診断への道は,2008年,60人のびまん性大細胞B細胞リンパ腫の患者と43人の健常人の血清からRNAを抽出し,3種類のmiRNA量をリアルタイムPCR法によって測定した報告から始まった22).その結果は,健常人と比較して,びまん性大細胞B細胞リンパ腫の患者では,血清中におけるmiR- 21, - 155, - 210の相対的な存在量が有意に高いことを示していた.現在は,circulatingmiRNAsを利用したがん診断法に関する報告が多く存在するが,そのなかでも,早期がん患者の血中でも特異的に検出されるmiRNAについて,次に例を挙げる.88人の大腸癌患者血清と11人の健常人血清から超遠心法によってエクソソームを回収し,得られたmiRNAを用いてマイクロアレイによる網羅的解析を行った23).その結果をもとに,qPCR法を用いて最終的に7種類のmiRNA(let - 7 a, miR - 1229, - 1246,- 150, - 21, - 223, - 23 a)が大腸癌患者血清中エクソソームに多く含まれることを明らかにした.また,これらmiRNAは早期のステージでも増加が認められ,体液中miRNA による早期診断の可能性を示した.しかし,この研究では,エクソソームに含まれるmiRNAを解析対象としているため,超遠心機を用いたエクソソームの回収作業が時間と手間を要し,ハイスループット性に欠けるという欠点もある.このような報告があり,早期診断を可能にするcirculatingmiRNAsの開発は出口が近いと考えられているが,現在,診断マーカーとして実際に臨床現場で利用されているものはない.つまり,臨床応用に向けて,いくつか解決すべき問題が存在しているからである.まず一つは,circulating miRNAsのインナーコントロールが定まっていないことである.細胞内miRNAの発現においては,RNU 44やRNU6 Bなどの小分子RNAがインナーコントロールとして広く用いられているのに対して,circulating miRNAsにおいては,miR - 16やmiR - 451をインナーコントロールとして利用している報告があるものの,完全に認められているわけではない.そのため,他にもcirculatingmiRNAsのインナーコントロールの探索を行った報告がいくつかあり,let - 7ファミリーやRNU6B,miR- 191- 5p,miR- 1228などが適していると示唆された24)~26).結局,共通見解がないまま,各人の判断でインナーコントロールは選ばれているのが現状である.また,インナーコントロールを利用しないで,体液の単位量あたりに存在するmiRNA量によって判断している報告もある.他の問題点として,臨床応用に向けた多施設による大規模解析が行われていないことが挙げられる.つまり体液の採取法や保存方法,保存期間などを統一するようなプロトコルを作成し,体液サンプルの“質”を一定化して,解析数を増やした時に,本当に有用なmiRNAであるか確認する必要がある.例えば,血液を採取後,しばらく血液サンプルを放置することで,circulating miRNAsがRNaseによって分解する可能性もあり得るし,採取した体液を-20℃で保存することによって,凍結融解による分解の影響を受ける可能性もある.つまり,インナーコントロールが定まっていないなかで,質が異なり,体液中に含まれるmiRNAの総量にバラつきがあると,体液の単位量あたりに存在するmiRNA量では診断できないことになる.