カレントテラピー 33-11 サンプル

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カレントテラピー 33-11 サンプル

Current Therapy 2015 Vol.33 No.11 671117骨髄由来抑制細胞(myeloid -derived suppressorcell:MDSC)なども関わっているが,主役のひとつとして抗原提示細胞や腫瘍細胞からT細胞が負のシグナルを受けるシステムが存在し,これを新たに免疫チェックポイントとネーミングされた.チェックポイントという名のとおり「ここが最も大事なポイントですよ」と強調することでこのシステムの重要性が世界中に知れ渡ることとなり,その高い有効性も相まってブームとなっている.Ⅱ これまでの免疫療法免疫療法の重要性は早くから認知されていたが,残念ながら免疫療法が開発されるごとに効果を十分に発揮できず,がん治療として治療の柱になるどころか,期待に十分に添えることもできていなかった.歴史上初めて行われたがんに対する免疫療法は,William Coleyのサルコーマの患者に対する細菌の投与と考えられている1).その後サイトカインを全身に投与する免疫療法2),サイトカイン産生腫瘍を用いた免疫遺伝子ワクチン療法2),あるいはがんペプチドワクチン療法3)など,免疫系の刺激とがん抗原の認識を手助けするという大きな根本原則の下に開発が行われてきた.免疫担当細胞の適切な活性化を行うことや,がん特異的抗原への認識を促すこと自体は今日の免疫学においても変わらず重要である.つまり車に例えるならエンジンの改造により排気量を上げる,ターボがつく,あるいは空気抵抗を減ずるなどにより,加速させることに注進してきた歴史がある.近年の免疫学の発展により,その歴史上期待どおりに効果を発揮できなかった理由がいくつか判明してきた.例として,がんの微小環境において抑制系の細胞が活性化した細胞を無力化あるいは寛容化させるなど負の働きをしていることが挙げられる.活性化されたT細胞もがんをがんとして認識するだけではなく,認識した後にもがんからあるいは抗原提示細胞からT細胞へ,さらにはT細胞同士でなどさまざまな形で,がんに対する殺細胞効果を抑制しようとする負のシグナルが送られてきており,治療効果の妨げとなっていることが大きな抑制化のメカニズムとして知られるようになった.つまり車に例えるならブレーキやエンジンブレーキのようなものが存在し,本来は車つまり免疫系が暴走しないようにコントロールする目的であるが,緊急事態のときつまりがんが発生したときに車が加速しようとすることを邪魔してしまうことが問題であることがわかってきた.現在の免疫療法の開発はこれらを念頭に置いて開発が進みつつある.Ⅲ PD-1/PD-L1T細胞が活性化した際に免疫系の暴走を防ぐため抑制する受容体が発現する.これが“免疫チェックポイント(immune checkpoint)”の本体であり,元々は抗原提示細胞とT細胞間での関わりが中心とみられてきた.かつて抗原提示細胞とT細胞間の共シグナル(副シグナル)因子が共刺激因子と呼ばれたように,T細胞を刺激することに重点を置いた発想と解析が行われ,刺激因子としての重要性が論じられてきた.何度も強調するが,この理論そのものは現在も重要である.これに加え,抑制系のシグナルも存在しこれも同様に重要であることが認識されてきた.この因子としてcytotoxic T-lymphocyte-associated protein4(CTLA- 4), programmed death 1(PD- 1) ,lymphocyte-activation gene 3(LAG- 3) , あるいはT cell immunoglobulin and mucin domain 3(Tim-3)などが存在することがわかってきた.このT細胞における免疫制御機構つまりT細胞の疲弊化や無力化へと誘導する因子,すなわちがん免疫にとって負の作用に関するチェックポイント因子はがん免疫療法を開発するうえで非常に重要であり,この免疫チェックポイントが今やがん免疫療法において標的として主役となっている(図1).