カレントテラピー 32-12 サンプル

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10 Current Therapy 2014 Vol.32 No.121172ける新たなTIAの診断基準では,TIAの神経症状の持続時間についての記載がなくなり,画像診断(DWI)による組織変化を基礎とする定義(tissue -baseddefinition)に変更され,急性脳梗塞を認めない場合のみをTIAと定義するようになった4).神経症状の持続時間を限定しない理由としては,表1に示すごとく,神経症状の持続時間の違いによって,DWIでの脳虚血巣の検出頻度に大きな差がないことである.持続時間6~24時間以内では約50%に脳虚血巣が認められるが,持続時間が1時間以内の症例においても約34%に脳虚血巣が認められている.つまり神経症状の持続時間だけでは,急性脳梗塞とTIAとを鑑別できないことが明らかにされた.2011年と2014年のAHA/ASAによるガイドラインも全く同じ定義である11),12).以上のように米国では,TIAの診断基準は2002年以降,何回か改訂され,持続時間を重視した臨床的な定義(time -based definition)から,画像診断に基づく定義(tissue-baseddefinition)に変更されてきた.Ⅲ 日本のTIAの診断基準一方日本では,1987年から3年間かけて,厚生省循環器病委託研究「脳の動脈硬化性疾患に関する総合研究(代表者:山口武典)」が行われた.そのなかの分担研究課題(平井班)から提唱された「脳の動脈硬化性疾患の定義および診断基準に関する研究」において,TIAについては頭部CTで脳梗塞を伴わないものを狭義のTIAと定義した2).しかし,偶発的に脳梗塞が認められても症候発現と無関係である場合にはTIA(狭義)と診断してよいとの診断基準であった.神経症状の持続時間は,従来のCVD ⅡおよびNINDS -Ⅲと同様に,24時間以内と定義した6),7).日本ではこの診断基準が発表された1990年以降,TIAの新しい診断基準は発表されていない.米国のTIAの診断基準の変遷をみて,わが国でも近年,TIAの診断基準の再検討が必要と考えられている.そこで,TIA診療の実態を明らかにし,わが国の医療環境に則した適切な診断・治療システムを構築することを目的として,下記の研究班が平成21年度(2009年度)に結成された.厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)による「一過性脳虚血発作(TIA)の診断基準の再検討,ならびにわが国の医療環境に則した適切な診断・治療システムの確立に関する研究」班(研究代表者:峰松一夫)である13).この研究班(以下,TIA研究班と略す)ではまず,2009年に日本におけるTIAの診療の実態を明らかにするために,日本脳卒中学会認定研修教育病院に対してアンケート調査を行った14).対象は683施設でその72.3%(494施設)から回答を得た.日常診療で用いているTIAの定義を5種類のなかから選択してもらったところ,図1に示すような回答を得た.それによると全体の48%の施設で,1990年に平井班が提唱した,神経症状持続時間が24時間以内で画像上脳梗塞を認めないという定義を採用していた2).しかも,DWIまで施行して画像所見を判断している施設がそのうち92.7%であり,CTで判断した施設が6.5%であった.いかに,日本の急性期脳卒中診療の現場で,DWIが施行されているかがわかる.次に多かったのが,1990年のNINDS -Ⅲに記載された,神経症状持続時間が24時間以内で,画像上の脳梗塞巣の有無を問わないとの定義で,42%の施設がこれを採用していた7).この2つの定義が,大多数を占め,計90%の施設で採用されていた2),7). その他,2006年,AHA/ASAガイドラインに記載された,神経症状持続時間が1時間以内で,画像上,脳梗塞巣を認めないとの定義は5%の施設で採用され10),2009年,表1 TIAの発作持続時間の違いによるDWIでの虚血巣検出の頻度神経症状の持続時間(時間) DWI高信号の検出頻度(%)0-1 33.61-2 29.52-3 39.53-6 30.06-12 51.112-18 50.018-24 49.5(症例数818人)〔Easton JD, Saver JL, Albers GW, et al. Definition and evaluationof transient ischemic attack. Stroke 40:2280,2009(引用一部改変)〕