カレントテラピー 32-12 サンプル

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Current Therapy 2014 Vol.32 No.12 71169急性脳血管症候群としての一過性脳虚血発作― 脳卒中予防の水際作戦―企画国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授内山真一郎一過性脳虚血発作(TIA)は短時間で治療なしに消失するため患者や家族に見逃されたり,無視されたりしやすく,医師にさえ軽視されたり,後回しにされたりしやすい.しかしながら,発症後早期のTIAは脳梗塞〔急性虚血性脳卒中(AIS)〕を続発する危険性が高い.TIAを持続時間のみでAISと区別するのは意味がなく,発症後早期のTIAはAISと同一スペクトラム上にある病態であり,TIAはAISとともに急性脳血管症候群(ACVS)という概念に包括し,救急疾患として対処する必要がある.実際,TIA患者をTIAクリニックのような救急診療体制で管理すれば脳卒中予防の水際作戦として,きわめて効果のあることが報告されている.TIAとAISを包括するAVCSの概念は,不安定狭心症と急性心筋梗塞を包括する急性冠症候群(ACS)の概念に相当する.すなわち,TIAは不安定狭心症に対応する病態であり,不可逆的な脳梗塞に移行しやすい不安定な脳虚血病態であるといえる.しかしながら,ACVSにはACSとの相違点もある.ACSが不安定粥腫の破綻を契機に形成される血栓による動脈の閉塞という均一な病態で発症するのに対してACVSはACSと病態を共有するアテローム血栓性TIAの他に,ラクナ性TIAや心原性TIAもあり,病態はより複雑である.また,ACSにおける心電図やトロポニンのようなバイオマーカーがACVSでは確立されていない.ABCD2スコアはTIAの脳卒中早期発症リスクスコアとして頻用されるようになり,医師国家試験に出題されるほど非専門医でも知っておくべき基本知識となった.ABCD2スコアが高いほどTIA発症後90日間の脳卒中発症リスクが高いことが知られているので,TIA患者のトリアージには必須のスコアである.MRI拡散強調画像(DWI)での虚血病巣,頭蓋内外の主幹動脈狭窄,TIAの反復,心房細動の合併がある場合も早期再発リスクが高いので緊急入院の適応がある.残念ながら非専門医によるTIAの正診率は低い.ABCD2スコアの項目に含まれる片麻痺や言語障害はTIAの可能性が高いが,一般医家がTIAを疑う根拠とする意識障害やめまいはTIAの可能性が低い.TIAは局所脳虚血による症状であり,全脳虚血でなければ生じない意識障害や失神がTIAで生じることはない.めまいの多くも耳鼻科疾患が原因である.TIAの初期診断に頭部のMRIとMRA,頚部血管超音波は必須である.MRIでDWIが陽性であればAISに準じた対応が必要となる.頚部血管超音波で高度狭窄,低輝度病変,潰瘍病変,可動性粥腫を認める例では脳卒中早期発症リスクが高い.非心原性TIAには抗血小板療法の適応があり,心原性TIAには抗凝固療法の適応がある.不安定粥腫の合併例ではスタチンの併用が必要であり,血圧と血糖の厳格な管理も重要である.内科的治療抵抗性のTIAには早期の頚動脈内膜剥離術や頚動脈ステント留置術も考慮すべきである.本特集号が読者諸兄の日常診療において少しでもお役に立てれば幸いである.エディトリアル