カレントテラピー 32-10 サンプル

カレントテラピー 32-10 サンプル page 28/32

電子ブックを開く

このページは カレントテラピー 32-10 サンプル の電子ブックに掲載されている28ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
カレントテラピー 32-10 サンプル

Current Therapy 2014 Vol.32 No.10 87Key words1035Wntシグナルによる骨形成の制御とスクレロスチン徳島大学病院内分泌代謝内科講師 遠藤逸朗Wntシグナルは骨形成に必須の情報伝達系であり,その異常により重症の遺伝性骨粗鬆症あるいは骨形成過剰症がもたらされる.古典的Wntシグナル阻害作用を有するスクレロスチンをコードするSOST遺伝子は17q12- 21に存在し,その不活性化変異が硬結性骨化症(sclerosteosis)の原因となるとして2001年に同定された.スクレロスチンは,シスチンノット様ドメインを有する糖タンパクであり,骨細胞のみに特異的に発現している.一方,Wntはその受容体であるLDL receptor -relatedprotein5(LRP5)やLRP6と結合することにより骨芽細胞の分化を促進するが,スクレロスチンはこれらの結合を阻害することにより,骨形成を抑制すると考えられている.また,尾部牽引による荷重免荷マウスでは,後肢骨においてSOST遺伝子転写促進からスクレロスチンの発現亢進がみられ,Wnt/β - カテニンシグナルの低下が起こることから,不動性骨粗鬆症の病態には,少なくとも一部スクレロスチン依存性のWntシグナルの抑制が関与していると考えられる.Wnt/β - カテニンシグナルは,骨のみではなく広く生理活性を有する因子であるが,スクレロスチンは前述のように骨細胞に特異的に発現しているため,スクレロスチン抗体は他の臓器でのWnt/β - カテニンシグナルを促進することなく,骨形成作用を発揮すると期待される.前臨床試験では抗スクレロスチンモノクローナル抗体がin vitro でWnt/β- カテニンシグナルを促進するとともに,in vivo 検討では骨密度(bone mineral density:BMD)を増加させることが示されている.さらに骨代謝マーカーおよび骨形態計測の結果より,抗スクレロスチン抗体は骨吸収促進を伴わない骨形成促進作用を有することが示されている.2011年に,完全ヒト型モノクローナル抗スクレロスチン抗体AMG 785の第Ⅰ相臨床試験の結果が報告されている.用量は0.1~10 mg/kgの単回皮下注射あるいは1~5mg/kgの経静脈単回投与で,骨形成マーカーは用量依存的に100%以上の上昇を認めており,骨吸収マーカーも用量依存的に最大50%程度の低下が認められている.BMDは単回皮下注で用量依存的な増加がみられ,10mg/kg投与群では85日後の骨密度増加は腰椎で5.0%,大腿骨近位部で2.8%であった.この骨密度増加量は,6カ月間のテリパラチド連日皮下注投与によるものとほぼ同等である.単回静注では,5mg/kg群で85日後に腰椎で5.2%,大腿骨近位部で1.1%の増加がみられた.この結果をもとに,第Ⅱ相臨床試験がプラセボ対照二重盲検で行われている.対象は閉経後女性でBMD低下がみられる419例であり,AMG 785は70mg, 140mg, 210mgの月1回皮下注投与,140mg, 210mgの3カ月おきの皮下注で12カ月間の観察を行っている.その結果,AMG 785はプラセボ,テリパラチド20μg連日皮下注あるいはアレンドロネート70mg毎週経口投与のいずれよりも腰椎の骨密度を有意に増加させている.また,有害事象発生はプラセボを含めた各群間で差は認められていない.なお,AMG 785の第Ⅲ相大規模多施設国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照並列群間比較試験が,登録症例5 , 600名の予定でわが国も参加して現在進行中であり,1年後にはその結果が得られる予定である.