カレントテラピー 32-1 サンプル

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80 Current Therapy 2014 Vol.32 No.180耐性インフルエンザ新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野教授 齋藤玲子インフルエンザの予防・治療には抗インフルエンザ薬が使用される.日本の臨床では大きく分けて2つのクラスの薬剤が使用されている.M2阻害剤(アマンタジン)とノイラミニダーゼ(neuraminidase:NA)阻害剤(オセルタミビル,ザナミビル,ペラミビル,ラニナミビル)である.これらの薬剤の投与後,一定の割合で薬剤耐性インフルエンザウイルスが出現する.しかし,最近では投与の有無にかかわらず,伝播力の強い耐性インフルエンザ株が世界的に大流行することも知られている.M2阻害剤の耐性は,薬剤が作用するA型インフルエンザM2タンパクの一塩基置換によって生じる.この10年ほど,M2阻害剤への耐性化が進み,ヒトで流行するA型インフルエンザ(A/H1N1pdm09,A/H3N2)は100%がM2阻害剤に耐性である.このため,近年アマンタジンは臨床的に使われていない.NA阻害剤はA型,B型インフルエンザともに,NAの酵素活性中心とその周辺部位に1アミノ酸変異が起こることで耐性化する.特に有名なのは,2007~2008年に季節性A/H1N1で耐性株の世界的な流行がみられたことである.このウイルスは,NAの275位がヒスチジンからタイロシンに変異した(H275Y)いわゆるオセルタミビル耐性株である.NA阻害剤耐性の検出法は,1)各薬剤の50%阻止濃度(IC50)を調べるNA阻害試験(感受性試験)と2)遺伝子シークエンスによる耐性変異アミノ酸の確認の二つである.最近まで世界共通の耐性ウイルスの判定基準が存在しておらず,各研究機関によって異なった基準が用いられてきた.そのため,世界保健機関(WHO)は2012年に耐性の判定に関する統一的な基準と分類を決定した.合意事項は,①H275Y耐性変異をもつN1ウイルスは,耐性ウイルスとして判定する,②それ以外のウイルスは,薬剤IC50を感受性の基準株と比較して判定する,の2項目である.①に関しては,H275Y耐性変異ウイルスでは臨床的な研究が進み,オセルタミビルによる治療を行った際の解熱効果が感受性ウイルスと比較して低下することがすでに確認されているという根拠がある.②の判定基準では,感受性株基準値と比較してA型で10倍,B型で5倍以内のIC50値を示す株は「感受性株」と判定される.また,A型で10~100倍,B型で5~50倍のIC50値を示す株は「感受性低下株」と判定され,A型で100倍,B型で50倍以上のIC50値を示す株は「高度感受性低下株」と判定される.新潟大学が調査した日本各地の株では,2012~2013年シーズンA型(H1N1pdm09,H3N2),B型ともに新基準による感受性低下(耐性)インフルエンザはみられなかった.臨床的な効果を減弱させてしまう薬剤耐性は大きな問題となるため,耐性株サーベイランスの継続が重要である.インフルエンザ診断と治療の最前線―抗インフルエンザ薬の時代を迎えて