カレントテラピー 31-9 サンプル

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86 Current Therapy 2013 Vol.31 No.9972野によっては90%以上の臨床医が,漢方薬を処方しており,その多くが必ずしも漢方の専門医ではない.大学教育においても2001年医学教育のコア・カリキュラムに「和漢薬の概説ができる」という項目が追加され,全国すべての80医学部・医科大学で漢方医学教育が実施されている.最近では,疾患のなかでは上記の如く,漢方医学が有用な領域があることも認知されてきており,EBMに基づいた実証的な研究データが広範囲に蓄積されつつある.本稿では,糖尿病領域に用いられる漢方薬のうちで,主な薬方について述べていく.Ⅱ 糖尿病における漢方処方『金匱要略』において糖尿病は消渇に相当し,「男子の消渇,小便反って多く,飲むこと一斗なるを以って小便一斗ならば,腎気丸之を主る」と記載されている3).日常の診療に漢方薬治療を処方する場合,糖尿病の診断,分類,合併症の進展度,食事・運動療法,治療方法の選択は西洋医学的手段で行い,合併症を中心とした治療上の問題点に漢方薬を併用する.継続的な食事療法と運動療法の指導を行ったうえで,血糖コントロールが良好にならなければ,まず経口血糖降下薬またはインスリンを投与することにより,糖尿病状態を改善させる.漢方薬の投与は,可及的に「証」に従い,自覚症状に応じて患者の苦痛を除去し,合併症の発症・進展を阻止することを目的として行われてきた1).1 清セイ心シン蓮レン子シ 飲イン『和剤局方』に記載され,胃腸虚弱を常時訴え比較的体力の低下した人で,排尿困難,残尿感,頻尿などを訴える症例に用いる.八ハチ味ミ地ジ黄オウ丸ガンに似て胃腸虚弱を訴える場合に用いられる.漢方薬では血糖降下作用が確実な処方はないが,2型糖尿病12例に清心蓮子飲7.5g/日を2週間,6例は非投与とし,有効率は軽度改善以上で58.3%耐糖能の改善がみられたという報告がある2).今後の大規模な研究を待ちたい.2 柴サイ苓レイ湯トウ柴胡剤と駆水剤のそれぞれ代表的方剤である小ショウ柴サイ胡コ湯トウと五ゴ苓レイ散サンを合方した柴苓湯は,ネフローゼ症候群を中心に多施設共同研究による有効性が報告されている.微量アルブミン尿においても糖尿病腎症の改善の可能性が報告されている.大磯らは,18施設における糖尿病患者で,微量アルブミン尿を呈する96例において,柴苓湯8.1g/日を6カ月投与し,尿中アルブミン比(A/C比)の低下した症例は39.6%で,A/C比低下群では罹病期間の短い症例,および服薬前HbA1c値,服薬前フルクトサミン値が低値である症例の比率が有意に高かったと報告した3).また,大磯らは,糖尿病早期腎症患者19例に柴苓湯8.1g/日を12週投与し,11例に微量アルブミン尿の改善を認め,また投与前の微量アルブミン尿50mg/g・Cr以上では12週後に微量アルブミン尿の有意な低下を認めたと報告している4).3 牛車腎気丸糖尿病領域のなかで最もよく漢方薬の投与が行われ,EBMが最も集積しているのは糖尿病合併症のなかでも神経障害関連の領域である.『金匱要略』では虚弱体質者で,中年以降ことに高齢者に八味地黄丸が用いられ,腰部および下肢の脱力感・冷え・しびれなどがあり,夜間の頻尿を訴える場合に用いる.さらに,八味地黄丸に生薬である牛ゴ膝シツ(抗アレルギー作用)と車シャ前ゼン子シ(利尿,インターフェロン誘起作用)が加わった牛車腎気丸が『済生方』に記載されている.牛車腎気丸は,糖尿病神経障害に起因する“しびれ”に対して有効性が報告されているが,牛車腎気丸の有効性の薬理作用に関して,糖尿病神経障害の成因には高血糖を中心とする代謝障害性要因と,神経組織を栄養する血管の糖尿病血管障害に起因する虚血の二者が大きな役割を果たしている.高血糖ではアルドース還元酵素(aldose reductase:AR)活性が亢進し,ソルビトールを神経細胞内に蓄積させることで障害をまねくが,牛車腎気丸はAR活性を阻害する作用(aldose reductase inhibitor:ARI)を有している.また,血管拡張作用,抗凝固作用もあり,末梢循環を改善させ,皮膚温を上昇させる作