カレントテラピー 31-3サンプル

カレントテラピー 31-3サンプル page 8/30

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血栓性疾患の種類と病態産生が重要であることや,内因系凝固経路による増幅機構がトロンビン産生をさらに促進していることが示唆された.血流は血液循環作用,血管壁への応力,細胞の機械刺激応答システムによる反応....

血栓性疾患の種類と病態産生が重要であることや,内因系凝固経路による増幅機構がトロンビン産生をさらに促進していることが示唆された.血流は血液循環作用,血管壁への応力,細胞の機械刺激応答システムによる反応などにより,血栓形成の全過程(血栓の発生,血小板粘着・凝集,血液凝固反応,血栓の成長)に影響を及ぼし得る.またプラーク破綻後では,微小塞栓や血管攣縮,プラークの急激な形状変化などにより局所血流が変化することが想定されているが,血流の変化がどのように血栓の成長に作用するかについてはほとんど検討されていなかった.筆者らはプラークにTFを発現する家兎動脈硬化性血栓モデルを用いて血栓作成後の血流量減少と血栓の成長を検討したところ,アテローム血栓が75%以上の血流量減少で閉塞性血栓に成長することを報告した12).次に,血管狭窄における血流異常と血栓の成長を検討した.家兎大腿動脈に肥厚内膜を作成後,狭窄部下流域の血管壁の変化を観察した.下流域の肥厚内膜には,内皮細胞と表層平滑筋細胞の剥離(びらん性傷害)が起こり(図2A),同部に血小板とフィブリンからなる血栓が形成された.傷害の範囲は時間とともに進展し,血栓の60%は3時間後に閉塞性血栓へと成長した(図2B).血栓内には剥離した内膜平滑筋細胞が巻き込まれており(図2C),狭窄下流域における血栓の成長に,びらん性傷害の持続が関与していることが示唆された13).狭窄部下流域では渦流が生じており,血小板や凝固因子が血栓表面に局在化しやすい状況があると考えられる.また健常動脈においても,狭窄下流域にはびらん性傷害と血小板からなる小さな壁在血栓の形成が観察されたが,閉塞性血栓には至らなかった.以上のことから,動脈血栓の成長にはTFを発現するプラークの存在と血流異常が重要な役割を果たしていると考えられた.なお,動物モデルで観察された肥厚内膜のびらん性傷害はプラークびらんの組織像に類似しており,血流異常がプラークびらんの発生に関与すると考えられた.Ⅵ静脈血栓と肺血栓塞栓症の病理肺血栓塞栓症は肺動脈の血栓塞栓により,急性の循環障害として発症する.外科手術,悪性腫瘍,長期臥床,凝固制御因子(アンチトロンビン,プロテインC,プロテインSなど)の先天的異常などが危険因子となる.なお,日本人ではプロテインS欠損の頻度が高く,第Ⅴ因子ライデン変異(活性化プロテインC抵抗性)やプロトロンビンG20210A変異(血漿濃度増加)は報告されていない.静脈血栓症の好発部は,下肢の深在静脈,次いで骨盤静脈で深部静脈血栓症とよばれ,両者で症例の80~90%を占める.一般剖検例(欧米)では27~83%に下肢静脈血栓(下腿静脈の約40%,大腿静脈の約20%)があるとされ,静脈弁を起始部とするものが多い14).宮崎大学医学部附属病院ならびに関連病院2,705剖検例の検討では,114例(4.2%)に深部静脈血栓もしくは肺血栓塞栓を認め,その約90%は無症候性であった.また,下肢の整形外科手術や腹部手術の20~50%の例に静脈血栓が証明されており,院内症例における無症候性静脈血栓が考えられている以上に多いことを示唆している.肺血栓塞栓症は,日本病理剖検輯報では剖検例の2%弱に認められる.筆者らの検討では剖検例の3%にみられ,その16%が致死性であった.また病理解剖では,ほとんどの症例において下肢の深部静脈に新鮮血栓が認められた.肺動脈主幹枝を閉塞するような大きな血栓の多くは,膝窩静脈より中枢側の比較的サイズの大きな静脈に形成されたものである.これらの血栓の起始部は,大腿部の静脈弁もしくはヒラメ筋静脈を中心とした下腿静脈とされている.肺血栓塞栓が右心室流出路から肺動脈主幹,または主枝に起こると急性肺性心をきたし致死的であるが,小さいものであれば無症候性のものも多い.実際,深部静脈の新鮮血栓や肺血栓塞栓でもその90%以上が血栓の器質化像や内膜肥厚を伴っており,慢性反復性の深部静脈血栓や肺血栓塞栓が存在していたことを示している15).深部静脈の血栓は,フィブリンと赤血球に富んだCurrent Therapy 2013 Vol.31 No.324911