カレントテラピー 30-4サンプル

カレントテラピー 30-4サンプル page 25/28

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Key wordsBPSDの病態と治療昭和大学医学部精神医学教室大野泰正慶應義塾大学医学部精神神経科学教室教授三村將認知症に伴う精神症状や行動異常は,周辺症状ないし認知症の行動・心理症候(behavioraland psychologic....

Key wordsBPSDの病態と治療昭和大学医学部精神医学教室大野泰正慶應義塾大学医学部精神神経科学教室教授三村將認知症に伴う精神症状や行動異常は,周辺症状ないし認知症の行動・心理症候(behavioraland psychological symptoms of dementia:BPSD)と総称される.BPSDが生じる要因として,記憶障害などの中核症状の影響,もともとの性格傾向や生活習慣,遺伝素因,神経病理学的・生化学的変化,心理社会的問題,などが挙げられる.BPSDは認知症の記憶障害や遂行機能障害といった中核症状よりも大きな介護負担となり,ある程度の治療効果が期待できるため,早期の医療的介入が求められる.徘徊や不穏・興奮などは多少とも覚醒水準の下がった夕刻から夜間に出現しやすく,夕暮れ症候群とよばれる.概日リズムの乱れ,睡眠障害に陥りやすい.特にレビー小体型認知症患者においては,人物や動物の幻視が特徴的である.妄想はアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症でよくみられ,内容は物盗られ妄想が多い.妄想対象は介護者など身近な人物が多く,介護者との関係にも悪影響を及ぼす.また孤立感や孤独感,自信欠乏から,アルツハイマー型認知症の初期ではうつ状態を伴いやすい.BPSDの治療には,まず第一に十分な環境調整や介護者による対応の工夫などの非薬物療法のアプローチが求められる.それでも改善しない場合には抗精神病薬を中心として,抗うつ薬,抗てんかん薬,抗不安薬,睡眠薬,漢方薬が症状に応じて使用される.抗精神病薬は幻覚妄想や攻撃性,不穏を示す患者にしばしば使用される.しかし,2005年に米国食品医薬品局(FDA)が既存の17の臨床試験を再検討し,非定型抗精神病薬が投与された高齢認知症患者群で,心臓疾患,感染症(肺炎),脳血管障害などによりプラセボ群に比べて1.6?1.7倍死亡率が高かったと警告した.その後,定型抗精神病薬においても非定型抗精神病薬と同等ないしそれ以上に死亡リスクを高めるとされている.BPSDへの非定型抗精神病薬の使用は適応外処方であり,その使用にあたっては本人や家族に対する十分な説明と同意が必要である.その他,抗てんかん薬・気分安定薬であるバルプロ酸やリチウム,漢方薬の抑肝散などもBPSDに対してしばしば使用されている.これらの薬剤使用にあたり,高齢者ではふらつき・転倒による骨折,誤嚥性肺炎や過鎮静などの有害事象が生じやすいため,まず少量かつ少ない種類で開始する.また,漫然とした長期投与を避けることも重要である.なお,コリンエステラーゼ阻害薬や,N -methyl -D-aspartate(NMDA)受容体拮抗作用を有するメマンチンも少なくとも一部のBPSDには有効である.Current Therapy 2012 Vol.30 No.435975