カレントテラピー 30-10 サンプル

カレントテラピー 30-10 サンプル page 8/42

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白血病および関連腫瘍の病態と分類IDH変異はヒストンのメチル化にも関与する10).このように,クエン酸回路の酵素がDNAおよびヒストンのメチル化に関与し,その異常により腫瘍が発症することが明らかにされた.DNMT....

白血病および関連腫瘍の病態と分類IDH変異はヒストンのメチル化にも関与する10).このように,クエン酸回路の酵素がDNAおよびヒストンのメチル化に関与し,その異常により腫瘍が発症することが明らかにされた.DNMT3AはCpGジヌクレオチドのシトシンを5mCへとメチル化するDNAメチル基転移酵素である(図)14).DNMT3Aの変異は遺伝子全般にわたるが,C端のメチル基転移領域に多く,R882のミスセンス変異が最も多い.DNMT3A変異は機能喪失変異と考えられるが,網羅的なDNAのメチル化の解析ではメチル化の程度にDNMT3A変異の有無はかかわっていない.DNMT3Aはポリコーム複合体(polycomb repressive complex:PRC)やヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)と複合体を形成するので,変異によりヒストンのメチル化や脱アセチル化に影響を与え,発症に関与する可能性もある.DNMT3A変異はAMLの20%前後に認め,予後不良とする報告が多い15).ASXL1の変異は当初MDSや慢性骨髄単球性白血病で見いだされ,AMLでも約10%に同定された16).ASXL1はエピジェネティクスの調節分子PRCの関連分子であり,コリプレッサーとして働く.ASXL1変異は高齢者に多く,予後不良とされる.BCORはBCL6のコリプレッサー,BCORL1はCTBP1コリプレッサーと相互作用し,E -cadherinの抑制に働くコリプレッサーである17), 18).BCORL1の変異は二次性AMLに多い.このように,網羅的な遺伝子解析により新たに同定された遺伝子変異がいずれもエピジェネティクスの調節分子である点は興味深い(表2).現在,脱メチル化剤やHDAC阻害剤の臨床応用が検討されているが,これらの遺伝子変異と治療反応性の相関の有無もまた興味深い.ⅤAMLにおける遺伝子異常の共存t(8;21)およびinv(16)陽性AMLは融合遺伝子単独では発症せず,セカンドヒットとしてKIT遺伝子変異を高率に伴う19).また,t(15;17)陽性の急性前骨髄球性白血病ではFLT3 -ITDが高率に観察される5).これらの受容体型チロシンキナーゼ遺伝子変異例は予後不良とする報告が多い.しかし,この共存例が必ずしも予後不良ではないとする報告もあり,十分な症例数による解析が必要である.遺伝子変異の共存も多くみられ,NPM1変異とFLT3 -ITDは高率に共存する8).NPM1変異はほかにもIDH1,IDH2およびDNMT3A変異とも共存する場合が多い(表2)11).また,FLT3 -ITDはNPM1のほかに,IDH1,IDH2あるいはDNMT3A変異としばしば共存する11), 14), 15).逆に,IDH1,IDH2およびTET2変異は互いに排他的である11).さらに,ASXL1,BCORおよびBCORL1変異はNPM1,FLT3 -ITDあるいはCEBPA変異と共存しないことが多い16)~18).このように,多くの遺伝子異常が共存,もしくは排他的であり,その蓄積による発症機序は複雑である.治療の反応性についても,単一の遺伝子異常では十分予後予測を行うわけにはいかない.予後良好な染色体転座であるt(8;21)およびinv(16)陽性AMLが必ずしも全例予後良好ではない一因は,共存する遺伝子異常の違いにあると考えられる.遺伝子変異についても共存するパートナーによって予後は異なる.その組み合わせごとの予後予測を行うためには,多くの遺伝子異常を多数例で解析する必要がある.Ⅵ二次性AMLの遺伝子異常二次性AMLとして,MDSやMPNからの白血病化と治療関連白血病がある.増加しつつある二次性AMLは治療反応性が不良であり,その詳細な病態解析および遺伝子異常の解析が必要である.MDSやMPNに由来するAMLではもともとの遺伝子異常を引き継ぎ,新たな遺伝子異常を獲得して白血病化する.MDSでは染色体の欠失や,複雑核型が多く,ヒストンのメチル化に関与するPRCの一分子であるEZH2の遺伝子変異やRNAスプライシングにかかわる分子の遺伝子変異を認める20).MPNでCurrent Therapy 2012 Vol.30 No.1099711