カレントテラピー 30-10 サンプル

カレントテラピー 30-10 サンプル page 13/42

電子ブックを開く

このページは カレントテラピー 30-10 サンプル の電子ブックに掲載されている13ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
増殖,細胞死の回避,分化の異常などに関与する.3リボゾームタンパク5q-症候群において欠失している第5染色体長腕上に,リボゾームタンパクであるRPS14が局在している.さまざまな実証実験の結果,RPS14の機能低下....

増殖,細胞死の回避,分化の異常などに関与する.3リボゾームタンパク5q-症候群において欠失している第5染色体長腕上に,リボゾームタンパクであるRPS14が局在している.さまざまな実証実験の結果,RPS14の機能低下は赤芽球のアポトーシスを誘導することが明らかにされ,RPS14のヘミ欠失が5q-症候群における高度の無効造血の主な原因と推察されている5).先天性赤芽球癆であるDiamond -Blackfan症候群において,さまざまなリボゾームタンパク遺伝子にgermline変異が見いだされていることからも,赤芽球造血ではリボゾーム機能が特に重要であろうと推察される.5q-ではRPS14の機能低下によりp53が活性化されることが,アポトーシスの亢進の原因のひとつと報告されている.リボゾームはmRNAからタンパクへの翻訳を行う場だが,この機能低下によってなぜ赤芽球で特異的にアポトーシスが生じるかは憶測の域を出ない.また,リボゾーマルタンパク機能不全は,細胞の増殖には不利に働いているため,5q-症候群におけるクローン性増殖は,RPS14以外の第5染色体長腕上の遺伝子欠失が原因と考えられる.5q-症候群の頻度は高くないが,他の染色体異常を伴うケースを含めると,5q-はMDSの10%で認められる比較的頻度の高い染色体異常である.これらのMDSでは,RPS14の欠失が無効造血に寄与していると推察できる.一方,無効造血はMDSの一般的な特徴である.第5染色体異常を伴わないMDSにおける無効造血もまたリボゾーム機能低下が関与しているのか,あるいは他の遺伝子異常がより重要なのか,などは今後明らかにされるべき課題である.4エピゲノム制御分子近年の大規模シークエンスの結果,MDSを含むさまざまな造血器腫瘍において,高い頻度でTET2遺伝子に機能喪失型の変異が生じていることが明らかにされた6).TET2は,メチル化シトシン(mC)のメチル基に酸素を付加し,ヒドロキシメチル化シトシン(hmC)に変換する酵素(ジオキシゲナーゼ)である.この変換は,最終的にはmCをシトシン(C)に変換する,すなわち脱メチル化するプロセスを促進する.したがってTET2変異によりDNAの脱メチル化が障害される,と推察されている.TET2はMDSの20~25%で変異が認められており,最も頻度が高い遺伝子異常である.一方,CからmCへの変換を触媒するDNAメチル化酵素であるDNMT3Aにも,MDSの8%で変異が見いだされている.DNMT3A変異がこの酵素の機能にどのような変化をもたらすかは明らかでないが,TET2やDNMT3Aの知見から,MDSにおけるDNAメチル化-脱メチル化の重要性に改めて注目が集まっている.エピゲノム制御機構とは,後天的なゲノム修飾による遺伝子発現制御機構であり,DNAメチル化修飾のほか,ヒストンの修飾(メチル化,アセチル化,ユビキチン化など)も重要な要素である.ポリコーム複合体は,ヒストンメチル化を制御する重要な要素である.この一員であり,H3K27をメチル化するEZH2の機能喪失型変異が,MDSの6%で認められる7).EZH2は第7染色体長腕の共通欠失領域である7q36に局在することからも,MDS発症に抑制的な役割を演じていることが推察される.H3K27のメチル化障害は,標的遺伝子発現の抑制ができなくなると考えられるため,MDS発症を促進する遺伝子がEZH2を含むポリコーム複合体(polycombrepressive complex 2:PRC2)の標的になっているのではないかと想像できる.一方,PCR1の機能制御にかかわるASXL1の変異も比較的頻度が高く,MDSの10~20%で認められる.ただし,ASXL1の変異がどのような意味をもつかは不明である.IDH1およびIDH2遺伝子の機能獲得型変異(合わせてMDSの約5%で検出;ちなみにグリオーマでは70%のケースで変異)も注目されている.IDH1/2は,TCAサイクルにおいてイソクエン酸をαケトグルタール酸(α-ketoglutaric acid:αKG)に変換する酵素である.しかし,造血器腫瘍やグリオーマでは一種の機能獲得型変異(特定のアミノ酸変異)が生じる結果,イソクエン酸がαKGに変換された後,さらに2-ヒドロキシグルタール酸(2-hydroxyglutarate:2HG)へと変換されてしまう.αKGはTET2やヒストン修飾にかかわるジオキシゲナーゼ群酵素の基質である一方,2HG(実際には異性体のR型2HG)16Current Therapy 2012 Vol.30 No.101002